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お で ん 家  へ よ う こ そ !!

お で ん 家 へ よ う こ そ !!

『発達障害者支援フォーラム』にて

2007/03/20 記事より

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~発達障害のある子の困り感に寄り添う教育支援~


岡山大学教育学部

佐藤 暁教授の基調スピーチより






「発達しょうがいを持つ子どもたちは、環境を整えてやれば困らない」


ここでいう環境には、

1、 時間環境
2、 空間環境
3、 人環境

三つがあります。



1、時間環境を整える
 
 
 時間環境とは、「見通しをつける」「スケジュール」などを指します。
といっても、大人の都合を優先した「スケジュール」を時間環境とは言いません。
「スケジュール」はあくまで子どもの都合、子どものことを考えてたてたものをいいます。
子どもの言いなりという意味ではありません。

 たとえば、運動会などで競技→待機時間→競技…などと続く時、待機時間の欄には「静かに待つ」という言葉を入れたくなりますが、それでは子どものことを考えていないスケジュールになります。
 
 この『待機時間』に、静かに待てる子どもの好きなことを組み入れることで、大人都合→子供都合…というような、子どもからみたシナリオが出来上がります。
 子どものシナリオに沿うスケジュールの立て方をすること。
 こういう工夫をして、初めて子どもの時間環境が整ったと言えるでしょう。




2、空間環境を整える
 
 
 空間環境とは平たくいうと、「場のしくみ」「場の行動」「周りで何をやっているか」ということです。
 
 発達しょうがいを持つ子どもたちは周囲の空気を読めない、理解できないと言いますが、では何故理解できないのでしょう?
 何故できないと考える前に、先ず「私たちは何故理解できるのか?」について考えてみていただきたいと思います。
 
 私たちは話し手側と受け手側が会話しているとき、頭の中に話の『絵』を描いて聞いています。人の話している内容が受け手側に伝わる時、それは『絵=理解するための媒体』を共有しているからです。
 
 では、発達しょうがいを持つ子どもたちに理解できないのは何故か。
 
 それは、話し手側と同じ『絵』を共有できないからに他ならないのです。
 だったら、同じ絵を共有できるように工夫してあげればいい。つまり、最初から絵にしてあげることで、彼らに伝わるのです。
 彼らは「理解できない」のではなく、「理解するための媒体」を作り出せないがために、正しい情報を取得できないでいるのです。

 「視覚支援、視覚支援」と言いますが、ただ絵にして見せればいいというのではない。絵を見せる意味までもきちんと理解した上で、彼らに伝わりやすい工夫ができているかを考えていただきたいと思っております。

 

 そしてこれもよく言われることですが、「待てない」ということ。
 では、何故私たちは待てるのでしょう?
 
 例えば、貴方は一日に1本、いつも15分は遅れてくる○時ちょうどのバスに毎日乗っていたとします。
 いつもは時間どおりにバス停に行き、バスを待っていたのですが、今日に限って雑用があり、バス停に着いたのが、出発時刻予定を5分過ぎていたとします。
 いつも遅れてくるのだから、今日も大丈夫だわ…と貴方は思うことでしょう。
 
 そしてバスを待って待ち続け、30分を過ぎました。
 そろそろ貴方は、おかしいわ。もしかして、今日に限ってバスは時刻通りに行ってしまったのかしら…と思い始めるでしょう。そして45分が過ぎ、1時間が過ぎ…。
 果たして貴方は待ち続けることができますか?
 
 私たちは「待つことによって、望むものが得られるから、または望む結果が得られるから待つ」のです。
 
 発達しょうがいのある子どもたちも同じなのです。
 子どもたちにはスケジュールによって、○○の後には望むことが得られるということを示してやれば、待てるのです。
 
 そうした工夫や予測をしないで、言葉だけで「待て」と言われても、私たちも待てませんよね?
 つまり、できない理由を把握し、工夫によって適切な支援を提供することが、「空間環境を整える」ということなのです。




3、人環境を整える


 人環境とは、読んで字の如く、「人」です。
 まず、この実例をご覧ください。岡山の学校の、発達しょうがいがある子どものクラスの授業風景です。

 (解説:担任は音読を誰かに当てようとしている。生徒たちはみな、教科書を開いている)

 担任:「みんなの前で、読んでみたい人いますか?いたら、静かに手を挙げてね」

 「読みたい人」ではなく、「読んでみたい人」とたずねている。
 こういう聞き方だと、必ず読めるという自信がなくても、読んでみたいと思う子どもたちすべてにチャンスが広がる。ここがまず素晴らしい点です。
 そして、静かに、穏やかに「静かに手を挙げてね」と言っている。
 これは「ハイハイ教室」にさせない、「静かに学べる教室」にするための工夫です。

 (解説:生徒の一人に当てる。生徒は立ち上がる)
 
 担任:「みんな、静かに手をあげてくれてありがとう。それじゃ、今から○○君が音読します。みんなは静かに聞いていてね。○○君は誰に聞いてほしい?」
 
 音読は、聞いている人がいるからできるのです。
 聞いてほしい人(みんなでもいい)を訊ねることで、読み手に「声は相手に届けるためにあるんだよ」ということを伝えている。

 (解説:担任は次に音読したい生徒をたずね、当てる)

 担任:「お待たせ、□□さん」    
 
 この「お待たせ」には、待っていてくれてありがとう、静かに聞いてくれてありがとうという気持ちが込められています。
 
 発達しょうがいがある、ないにこだわらず、みんな誰もが大切にしてくれると思える教室。

 この先生は、この後、発達しょうがいがある子どもが「トイレ」と言って、教室を出て行ったあとに、「それじゃ、○人(クラス全員)で、○○君の分も読もう」とクラスに呼びかけました。
 欠けた子を思いやっての呼びかけをしているのです。
 
 人環境とは、ここでは学級ですから、担任の知恵によって、誰かを犠牲にすることなく、その教室にいるだけで、何かほっとできる空気がある環境のことを言います。



『環境を整える』篇 終わり





『教育現場に必要なこと』に続く






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